阿蘇山仙酔峡佛舎利塔(仏舎利ハンター日誌 Vol.19)


日本山妙法寺山主の藤井日達をして「宝塔中の宝塔である」「今後これが仏舎利塔の基本になるであろう」と言わしめた仏舎利塔が、仙酔峡に建つ。
1967年(昭和42年)に完成した高さ30mの阿蘇山仙酔峡仏舎利塔には、インドの初代首相ジャワハルラール・ネルー(Jawaharlal Nehru)から贈られた仏舎利が奉祀されている。設計は、国内外多数の仏舎利塔を手掛けた大岡實による。

阿蘇山の麓、一の宮町坂梨は日本山妙法寺の藤井日達師が生まれた地である。
かねてよりその生誕の地に仏舎利塔を建立したいという宿願があった中、坂梨在住の信者の一人であった菅真弘(菅実就)の母により仏舎利塔の基礎となる小宝塔の寄贈が申し入れられた。なお、菅は日本大学工学部出身の建築家で、北九州市にある北九州仏舎利塔(1962年落慶)の設計を担当している。
この寄贈をきっかけに仏舎利塔建立の機運が高まり、一の宮町の甲斐重喜町長、一の宮町商工会長の八木らの有志により仏舎利塔建立奉賛会が結成され、1960年(昭和35年)6月6日、建立予定地において定礎式が開催された。
この定礎式にはセイロン(現スリランカ)のフォンセカ大使(Susantha de Fonseka)、駐日インド大使代理、門司にある世界平和パゴダのウ・ケミンダ(U Kemminda)らの海外代表を始め、国内からは水上熊本県副知事、鰐淵健之初代熊本大学学長、熊本日日新聞社専務の島田四郎なども出席し、県内外の信者など計500名が参列する盛大なものとなった。
式典では寄贈された高さ3mほどの小宝塔の除幕とともに、セイロンから贈られた仏舎利、インド・王舎城(ラージギル/Rajgir)の聖土などが小宝塔に奉納された。この時点では本殿・客殿・大宝塔を含めた総工費約5000万円、2年の計画で建立が予定されていた。

1961年(昭和36年)から1962年(昭和37年)にかけて本殿と客殿が完成、1962年には大岡による大宝塔の設計も終わった。もともと大岡の専門は日本の古建築であり、初めて仏舎利塔設計を手掛けた釧路城山佛舎利塔の際も「勉強しながらでよければ」という条件付きで承諾したものである。その後、1957年(昭和32年)に初めてインド・セイロンを訪問し現地調査を行い、大岡の中で仏舎利塔設計の基準ともいうべきものが形作られていった。阿蘇山仙酔峡仏舎利塔は、そうした現地調査の成果を本格的に反映して設計された最初の仏舎利塔であり、日本山妙法寺にとってのみならず、大岡實自身にとっても重要な意味を持つものであった。

1964年(昭和39年)1月から鉄骨工事及びコンクリート打設が開始され、同年8月には海外代表を迎えての鉄骨上棟式が挙行、1966年(昭和41年)には九輪が完成し、正面台座に釈尊像が安置された。工事はその他の仏舎利塔同様、僧俗・信者・地元民による勤労奉仕により作業が進められた。なお、定礎式で建てられた小宝塔の外側に鉄骨を打設しており、大宝塔内部に小宝塔が内包される形となっている。

定礎式から7年が経過した1967年(昭和42年)7月31日、ついに仏舎利塔は完成し、翌8月11日に落慶式典が執り行われた。式典では藤井日達師が大導師を務め、テネコーン駐日セイロン大使(Herbert Tennekoon)、駐日ビルマ大使、コマロフスキー駐日ソ連大使代理(George E. Komarovskii)、インドの前上院議員のカカ・カレルカール(Kaka Kalelkar)に加え、イギリス、アメリカ、西ドイツ、ユーゴスラヴィア、モンゴルなどの計9か国から20人の海外来賓が参列した。またカンボジア・インド・ネパールの各大使からも祝電が寄せられている。
国内からも一の宮町長で慶賛会会長を務める松崎清や熊日新聞専務の島田四郎の他、奉賛会の関係者や全国の信者などを含め、計1,000人が参列する盛大なものとなった。
この落慶式典で、改めてインドのネルー首相より贈られた仏舎利が一粒、九輪の宝冠に奉祀された。

完成した仏舎利塔は、高さ約30m、基壇直径約24mで、その他の多くの仏舎利塔と違い仏龕が存在せず、塔中央の台座に転法輪印を結んだ釈尊坐像が安置されている。この仏像は京都の平安美術製作所の富山高徳による作品である。
落慶の時点で正面以外の3方向にも仏像安置用の台座が設けられたが、長らく仏像が安置されることはなかった。

落慶から半世紀以上が経過した2022年(令和4年)4月8日から、老朽化並びに2016年(平成28年)の熊本地震による被害の修復工事が開始された。そして2025年(令和7年)11月9日、修復復興慶讃大法要が執り行われるとともに、長年空座になっていた3方向の台座にも新たに仏像が安置されることとなった。


参考文献:
安田徹也:建築史家大岡実の仏舎利塔
坂梨校百年誌
西数男:こどものための読物 日蓮聖人と藤井日達聖人のおはなし
見寶塔 阿蘇山仙酔峡佛舎利塔落慶記念(大岡實博士文庫資料番号:6-3-3-21)
熊本日日新聞
1960/06/04・1960/06/06・1960/06/07・1967/08/10・1967/08/12・2025/11/17
西日本新聞 1960/06/07
朝日新聞 1967/08/12
毎日新聞 1960/06/07・1967/08/12





















阿蘇山仙酔峡佛舎利塔
Address : 熊本県阿蘇市一の宮町宮地


2021/12・2026/05撮影



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