秋田平和塔（仏舎利ハンター日誌 Vol.4）-ミャンマーの青い鳥

上部に8枚の蓮の花を模したデザインが特徴の秋田平和塔。

全国に数ある仏舎利塔の中でもその型とデザインにおいて最も優れていると言われたこの平和塔（仏舎利塔）は、1967年（昭和42年）の完成で、初代インド首相のジャワハルラール・ネルー（Jawaharlal Nehru）より贈られた仏舎利が奉祀されている。

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1954年(昭和29年）5月15日、インド並びにセイロン（現スリランカ）の仏教代表団が仏舎利を奉持し秋田市へと到着した。翌16日に市内金照寺山にて仏舎利奉納式典並びに仏舎利塔の地鎮祭が開催され、インド代表のデバプリヤ・ヴァリシンハ（Devapriya Valisinha）より日本山妙法寺の藤井日達上人を通じ、秋田仏舎利世話人会の藤田溪山へと仏舎利が贈られ、小宝塔へと安置された。この式典には池田徳治秋田県知事並びに武塙祐吉秋田市長も参列した。

小宝塔へと安置された仏舎利はインド初代首相のネルーより、日本山妙法寺山主の藤井日達上人へ贈られた10粒の仏舎利のうちの1つで、所謂「ネルーの10粒」と呼ばれるものである。

藤井上人は贈られた10粒の仏舎利を基に全国10か所に仏舎利塔建立を計画し、秋田はその10か所の1つとして選ばれた。1953年（昭和28年）9月には藤井上人並びにダルメスワール（M. Dharmeshwar）らが秋田を訪問し地元関係者と建立の打ち合わせを行ったという。

どの時点でかは不明だが、仏舎利塔世話人会（代表：小幡谷政吉）が組織され、建立地として株式会社高井南茄園の好意により金照寺山の私有地が提供され、その地に小宝塔が建立された。

世話人の中には秋田市土崎にある臨済宗海禅寺住職の藤田溪山（秋田市議会議員、秋田県公害審査会委員長、ヒューマンクラブ会長を歴任、秋田市文化賞・秋田県文化功労章受賞）もその名を連ねている。

計画ではこの地に1000万円の工費で高さ80尺（約24m）、直径20間（約36m）の大仏舎利塔が建立される予定で、地元の世話人会とともに日本山妙法寺からは林達聲上人が中心となり建立計画が進んでいくことになった。

1956年（昭和31年）10月には仏舎利3年祭並びに仏誕2500年祭大法要が行われ、駐日セイロン大使のフォンセカ（Susantha de Fonseka）や武塙市長、林次郎秋田市議会副議長などが参列、一般参列者も500名を数えたという。

また1959年（昭和34年）8月18日にはインドからジャガト・ナラヤン・ラール（Jagat Narain Lal）を代表とする仏舎利塔参拝団が秋田を訪問、大宝塔建立の打ち合わせを行った。なお、この仏舎利塔参拝団はこの後釧路を訪問し、釧路城山佛舎利塔の落慶式典にも参列している。

しかしながらこの秋田の仏舎利塔建立計画も予定通りにはいなかった。

詳細については定かではないが、結果的に金照寺山に仏舎利塔が建立されることはなかった。現在もこの小宝塔はひっそりと存在してはいるが、既に建立地は高井家の手から離れており、今後この小宝塔が存続し続けるかどうかは不透明である。

金照寺山の小宝塔

Address : 秋田県秋田市楢山金照町6-23

地鎮祭から10年以上が経過した1966年（昭和41年）、忘れ去られていた仏舎利塔の建立計画が再び動き出す。同年、現在秋田平和塔が建っている天徳寺山一帯を平和公園として造成する事業が始まり、その事業の1つとして公園内に全世界の人々が相互に助け合い、むつみあって争いのない真に平和な世界の実現を念願として、平和塔（この時点で仏舎利塔から平和塔へと呼称が変更となっている）の建立が計画された。

8月11日に改めて秋田平和塔建立奉賛会が組織され8月20日には建立起工式が盛大に執り行われた。なおこの起工式を報じる地元秋田魁新報の記事ではその完成形について「インドのタージマハルと同型」の計画であると伝えている。

新たに組織された奉賛会には、仏舎利世話人会から引き続いて小幡谷政吉と藤田溪山、新たに秋田魁新報社の社長、秋田市教育委員長、秋田市公平委員会委員長などを歴任した古村精一郎（会長）や秋田市議会議長を長年務めた鈴木傳八、秋田市議会議員、秋田高校PTA会長を務めた長門一郎などがその名を連ねた。

翌1967年（昭和42年）8月5日、1953年の小宝塔仏舎利奉納式典の際にデバプリヤ・ヴァリシンハより仏舎利を手渡された藤田溪山の手によって、金照寺山の小宝塔から天徳寺山の平和塔へと仏舎利が遷座、15日には遂に高さ25.2m、直径25mの秋田平和塔が完成することとなった。

この平和塔の設計は秋田市建設課の技師によるもので、インドの仏教建築の様式を採用して設計され、僧侶が持つ鈴を伏せた形をデザインしたという。また上部には蓮の花を配し、中央には合掌（初転法輪）の釈尊座像が安置された。

同年9月8日に秋田市による主催で落慶法要並びに完工式を行い、当日は小畑勇二郎秋田県知事、川口大助秋田市長、内藤良平代議士、日本山妙法寺の藤井日達上人など約1500名が参列した。なお小宝塔の土地を提供した高井南茄園は内藤の妻の実家であり、内藤は小宝塔建立計画の時点から本件に深く関わっていた。

平和塔は鉄筋コンクリート造りで総工費の約3500万円は市民からの浄財並びに市費により賄われた。

なお、完成直後には中央に安置された釈尊座像に黒いマジックで髭が落書きされるなど、必ずしも全県民からの支持を得て建立されたとは言えないのかもしれない。

2017年（平成29年）10月1日には仏舎利遷座50周年を記念し、ヒューマンクラブ主催で記念式典が開催され、スジャン・チノイ（Sujan Chinoy）駐日インド大使も参列した。

平和塔は現在も秋田市により維持管理が行われている。

参考文献：

光地英学：日本の仏舎利塔

小幡谷政吉：小幡谷政吉画文集　戦争と平和編